第16回あたらしい創作絵本大賞 審査結果
大賞作品は、出版されます。
あたらしい創作絵本大賞は、こどものためのロングセラー絵本を創作する人を発掘していくコンテストです。
たくさんのご応募ありがとうございました。
表彰式と合評会は6月28日(土)に開催します。
各賞の審査結果は以下の通りです。
■大賞
「ぜったいむり子」たちばな のりゆき
[作者プロフィール]
札幌市在住。地方公務員。若い頃の夢に再チャレンジということで4年前から絵本づくりを再開。魅力的なメディアが多くある現代、それに出会う前の子供たち(5歳前後)を絵本で笑わせたい!というコンセプトで作品をつくっています。
[受賞コメント]
かつて子供時代にテレビを前に笑い転げた「バラエティ」や「コント」が創作のベースになっています。この作品では「こんな○○は、嫌だ!」のように次々と変なものが出てきます。それに主人公がツッコミを入れるという流れですが、読者がそれぞれの感性で別のツッコミをいれても面白いかもしれません。自分もすごく楽しみながらつくった作品ですので、今回、大賞という評価をいただき、選考に携わられた皆様に感謝いたします。本当にありがとうございました。
■優秀賞
「てんてこまいサーカス」みずの まゆ
■佳作 5作品
「クックのいろぬり」なかたに なつ
「ほんのおうさま」辻原 謙一
「カーニとターコは びようしさん」はまだ みわ
「ぼくのすきなこと」まつもと ゆかり
「ぶるぶるペンギン!」あおい むう
作品選考の際には、審査を公平にするため、作者プロフィールは確認せず、作品のみを読んで審査しています。
審査員総評(50音順)
香曽我部 秀幸
賞の数に限りがあるため、このような順位がついてしまいましたが、皆さんの作品は甲乙つけがたく、ほぼ横一線でした。ただ毎年申し上げていることですが、絵は達者なのに物語の構成が不十分なものが大半です。思い付きだけで物語を展開させていて、そこからの発展が乏しく、徹底して練り上げる作業が疎かになっているように感じます。
そんな中にあって『ぜったいむり子』は絵の個性がダントツでした。建築資材のボードに描いたかと思わせるベージュ色のバックにきわめて強い黒の輪郭線、オレンジ色・黄色・灰色などを配した色彩構成はただならぬセンスを感じさせてくれます。ただ、物語の推移には不満で、とくにごりばあが出現する15場面以降には違和感を感じました。
『てんてこまいサーカス』は最も完成度が高い作品で、サーカスのシーンに重ねて子育ての大変さを表わした物語は大いに読者の共感を得ることでしょう。絵にもう少し新鮮味がほしいところです。
『ほんのおうさま』『ぼくのすきなこと』の2作品は絵の表現は大変魅力的ですが、物語の展開、とくに後半から終結部に難があります。作品のテーマは何処にあるのか、読者に何を読み取ってほしいのか、さらなる推敲を重ねることを望みます。
長野ヒデ子
今回の大賞の『ぜったいむり子』は本当に楽しく、久々に大賞が出て嬉しいです! なにより、展開がワクワクしてページをめくる楽しみが大きい。しかも読者を裏切り「えっ!こんなことに!」とおどろかしてくれるテクニックはいやらしくなく、気持ちがいい展開で「うまいなあ!」と思う。
何度も見返していると「ここはこうした方がいいかなあ!」「なぜ左開き?」とか思うこともいろいろありますが、それも新鮮に見える。最後の方でおばあさんが出てくるところが、賛否両論でした。でも、審査員の中でおばあさんの私は、「全然コレもいいわよ!」と思う。無理やり自転車に乗りたい子どもといっしょに乗り切った感じがする。絵が切り絵の様なデザイン的なスッキリした新鮮さが気持ちいい。でもそのスッキリした感じが洗練されすぎで、泥臭さ、人の温もりが少し欲しいなあと思った。それがあるとさらに素晴らしくなる。おめでとう!
今回の応募作品にはパソコンで描いた絵が多かったです。綺麗な線、無駄のない色合いなどなど本当によくできている。でもよく見ていると、なぜかどこか全体的に作品から、魅力的な力がなかなか伝わってこない。どこかで観たような、新鮮さが欠けている気がした。「いいなあー」と思う作品もありましたが、結末が力つきてしまっていておしい感じでした。最後まで力を抜かず、ドッカーンとした迫力のあるその人らしい作品を待ってます!
みやざき ひろかず
とびぬけて完成度の高い作品がなく審査員全員が選考に悩みました。
大賞に選ばれました『ぜったいむり子』は、応募作品の中でも絵のシンプルさ、力強さ、面白そうなふんいき、で一歩抜け出ていました。絵の楽しさに比べてお話しはすこしあっさり終わってしまって物足りなく、後半もっともっと盛り上げてほしかったように思います。
優秀賞の『てんてこまいサーカス』は発想がおもしろく好評でした。個人的には絵にもうすこし楽しさや個性がほしい気がします。
佳作の中では『ぼくのすきなこと』がほのぼのとした雰囲気と微妙なこころの動きを描いていて印象に残りました。『ほんのおうさま』は多くの審査員が「おっ!」と思った作品です。絵もすてきで読み始めは心惹かれるのですが…後半の展開が残念です。『クックのいろぬり』は魅力的な絵に引き込まれます。ただおはなしの内容と暗いトーンの絵がうまく噛み合っていないような気がします。『カーニとターコはびようしさん』『ぷるぷるペンギン』は絵にもうすこし新鮮さと個性がほしいと思いました。
宮下 恵茉
今回、審査員のほぼ全員が推した『ぜったいむり子』が大賞を射止めました。
おめでとうございます! タイトルも表紙もとってもキャッチーで、テキストもテンポよく読み進めることができました。失敗するのがいやであとすこしの勇気が出ないこどもたちの背中を優しく押してくれる、そんな一冊になるといいなと思います。
優秀賞の『てんてこまいサーカス』は子育て中の親の苦労に焦点を当てたところが新しいと評価を集めました。この絵本を読んで元気づけられる親御さんも多いでしょうね。
惜しくも佳作になった作品もそれぞれ魅力がありました。
わたしが個人的にいいなと思ったのは絵柄も可愛く安心して最後まで読むことができた『カーニとターコはびようしさん』、色塗りだけでなくテキストの楽しさも魅力があった『クックのいろぬり』でした。どちらもあとほんの少し工夫するだけでぐっとよくなる作品だと思います。『ほんのおうさま』はラストに賛否両論ありましたが、アイディアがおもしろかったです。『ぼくのすきなこと』は哲学的なテーマとかわいらしい絵柄に票が集まりました。『ぶるぶるペンギン!』はさむがりやのペンギンというアイディアが光っていました。
全体の作品を通して感じたことは『ジャストアイディア』で描き始めてはいけない、ということ。そのアイディアをどう伝えるのが一番効果的か『思いつきのその先』が必要です。また、毎年感じることですがテキストをどれだけ練るかも大切です。書き上げたテキストは必ず音読して耳から聞いてここちよいかを確認してみてください。
それだけでぐっと作品のクオリティが上がると思います。
次回も、『あたらしい絵本』に出会えるのを楽しみにお待ちしております。
森 貴志
非常に難しい審査となりました。審査員全員が同じように選ぶ作品はなく、意見に相違も見られました。
大賞となった『ぜったいむり子』は、キャラクターの描き分け方や最後の展開にやや違和感をもたせるものの、ありそうでない絵本作品に仕上がっており、強烈なインパクトと勢いを感じさせるものといえます。
優秀賞の『てんてこまいサーカス』も、実況中継ふうの語りによって、絵と物語に流れがあり、一日の子育ての様子を「サーカス」に見立ててユーモラスに描いています。子育てがおもにおかあさんによっておこなわれていること、また、本コンテストにおける絵本の読者対象が「小学校低学年ぐらい」であることを考慮すると、受賞にふさわしくないという考え方もできます。しかし、このテンポのよさによって描かれる子育ての「てんてこまい」な現実は、読者に楽しく共感を覚えてもらえるように思います。
前回に比べ、今回は応募作数が増え、審査員一同うれしく思いました。受賞作には「はやくページをめくりたい」と思わせるものが多かったかもしれません。しかし、〈読む〉という行為は、その衝動と同時に、大切に1ページ1ページをめくる行為ともいえると思います。
AIが容易に絵本のプロットを生成する時代になりました。次回も「あたらしい創作絵本」として多くの方々が応募してくださることを期待しています。
創作絵本大賞 事務局
今年は、全体的に応募作品のレベルが高く、開封して作品を読むのがとても楽しかったです。幼年童話を15見開きで区切ったような絵本は、昨年より少なくなりましたが、引き続き、応募していただく場合は、幼年童話と絵本の違いを考えて欲しいと思います。
選外となった『リリーのスープ食堂』は、絵の構図や展開は、プロとして通用できそう。ただ、テーマがおとな向けで、読者対象年齢とずれているのは残念でした。『ロイさんのあごひもテーラー』は、絵の細かさや絵を読む楽しさをうまく表現できています。作者のスキなことを思いっきり詰め込んだ、楽しい作品なのですが、子ども読者の興味との微妙なずれを感じてしまいました。『ぼくらのフロートアイランド』は、子どもがスキなものがたくさんでてきてわくわくしました。最後、「夢オチ」で、強引に物語を終わらせたのはもったいなかったです。最後までアイデアを詰め込んでほしいです。
来年も、あたらしいアイデアの作品をお待ちしています。
主催:梅花女子大学
共催:梅花女子大学児童文学科・こども学科(児童文学・絵本コース)同窓会、アミーニ(運営・事務局)、梅花女子大学こども教育学科
協賛:株式会社未来屋書店