第2回あたらしい創作絵本大賞 審査結果
第2回あたらしい創作絵本大賞の結果が発表されました。
■大賞
「ちいさなくるま」 みうら もえ
●プロフィール
1975年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。
母親に「くまのプーさん」など毎夜読みきかせをしてもらい、今の自分の物作りの原点になっています。図画工作 以外はオール1の小学生でしたが、2年浪人してなんとか、多摩美術大学グラフィックデザイン学科入学。漠然と絵本が作りたかったので就職難。
株式会社ナムコにゲームビジュアルデザイナーとして入れてもらい、5年間勤務。周りに迷惑をかけながら、協調性や思いやりについて教わりました。運良くリクルート主催のグラフィックアート「ひとつぼ展」第14、20回に入選。絵本制作への熱意だけで退社後、三鷹の保育園に出会い、現在は、保育を手伝わせて貰いながら絵本制作中です。
●受賞コメント
実は、おかしな自信がありました。 反面とんでもない未熟品だ、という気持ちもありました。丁寧に観て下さった主催者の方々、審査員の先生方 に本当に感謝しております。
頭に浮かぶアイデアも手から生まれる線や形も周囲の人や自然がくれた栄養によるもので、一人では出来ない事ばかりと思っています。 このお話で、よんだ人が顔を上に向けてワクワクした気分になれたらいいなと思います。 この先も絵本をずっと制作してゆくうえで、 まだまだ課題はとてつもなく多く、先も長いと存じています。それを楽しみながら作り続けてゆきます。
■優秀賞 なし
■佳作(作品受付順)
「エミリオのはるなつあきふゆ」てるこ まり
「からすのカータ」三幣 真代
「ヤヤとロロのそらすもう」おおの きょうこ
「ふゆのひのおとしもの」いぬいじょう ゆり
「いびきまくら」とりやま ゆき
「くものアーレイ」森下 知永
■最終選考に残ったが佳作に選ばれなかった作品
「とびらのおおいいえ」mitaka
「わたしのいろ」木村智博
「世界一番素敵な夢」方セミ(バン セミ)
「モコのだいぼうけん」芝野梨沙
「ペロ」仙田まどか
作品選考の際には、審査を公平にするため、作者プロフィールは確認せず、作品のみを読んで審査しています。
審査員総評
富安 陽子
今回は、絵に力のある作品が多かったように思います。「エミリオのはるなつあきふゆ」(てるこまり氏)の幸福なイメージに満ちた絵画表現や、「ふゆのひのおとしもの」(いぬいじょうゆり氏)のトーンをおさえた静かな雪の世界の表現にも好感が持てました。「カラスのカータ」の三幣真代氏は昨年に続く応募でしたが絵がグンと魅力的になっていて驚かされました。「ヤヤとロロのそらすもう」(おおのきょうこ氏)の絵には圧倒的なインパクトとはちゃめちゃな面白さがあり審査員の評価も高かったのですがストーリーの迷走が作品の足をひっぱったのが残念です。「いびきまくら」(とりやまゆき氏)、「くものアーレイ」(森下知永氏)は、ユーモラスなアイデアに一票。子どもたちも、こういうお話は好きだろうなと思いました。「ちいさなくるま」(みうらもえ氏)は、頁をめくる度に一つひとつの場面が物語を語りかけてくるようで、納得の大賞受賞です。おめでとうございます!
長野 ヒデ子
2回目となると前回よりも力作が多く選考も楽しくありました。
とてもユニークな発想でおもしろい作品が何点かありました。しかし、絵とテキストがうまくかみ合っていなので残念だと思う作品が多かった。どちらかが足りないのです。
いい絵なのにストーリーがおしい!とか、出だしはとてもいいのに、後半つまらなくなって持続できてないのです。一作仕上げるのは大変なことだけどがんばってほしい。!
大賞受賞みうらもえさんおめでとう。みうらさんの作品「ちいさなくるま」は絵が本当に細部にわたってこまやかで、ゆたかな色使いで心情を表現されていて、
絵の展開のリズムもありとてもよかった。絵に比べて、テキストのほうは擬音だけでまとめられてあり、擬音だけでまとめる難しさがクリアできてない気がした。この擬音にもうひとつ工夫がほしかった。
佳作の「いびきまくら」「くものアレーイ」は本当にユーモアがあり、切り口が新鮮で、素直におもしろい!どちらも好きな作品で大賞にも迫るものがあった。おしかったですね。この2作はうまく編集すればもっとよくなるなあと思った。「エミリオのはるなつあきふゆ」は、絵がはちゃめちゃに面白い!本当に、このエネルギーに圧倒された!おもしろいいい絵だ。ぜひともテキストを再検討してやり直したらすごい作品になるのになあ、もったいないなあ。「からすのカータ」は元気がよく「ヤヤとロロのそらのすもう」は楽しい。共にまださらに良くなられる素質のあられる方だ。
「ふゆのひのおとしもの」は、まとまりも丁寧でとても気持ちのいい作品。それだけにもう一つ何かがほしかった。おしい。
選に漏れた方で「とびらのおおいいえ」「わたしのいろ」「世界一番素敵な夢」「おねがいサンタさん」が気になり面白かったが、いいところで絵と文が息切れしていて、おしかった。次作とても期待しています。
みやざき ひろかず 以上50音順
大賞に選ばれた「ちいさなくるま」は、絵を追っていくと自然に物語が展開し、その世界に引き込まれます。文章の長い物語的作品が多かった中で、絵だけでも読める絵本本来の魅力を持っています。乗り物がしっかり描かれないと、このお話の魅力は伝わらないのですが、まるで手で掴めそうなバスなど、表現力の確かさを感じました。
「エミリオのはるなつあきふゆ」はみずみずしく素直な絵がここちよい作品。ハーブの庭に居るような爽やかな魅力を感じました。
「ヤヤとロロのそらすもう」は絵がユニークで力があります。画面全面に絵を描きすぎてパワフルさが100%伝わってこないのが惜しい気がします。「ふゆのひのおとしもの」は静かな抒情的世界が素敵。「からすのカータ」は絵の表現力をもうすこし。「いびきまくら」はアイデアがとっても面白い!「くものアーレイ」は大胆な絵と発想が魅力です。
高科 正信
「エミリオのはるなつあきふゆ」はまとまりのある作品でしたが、出版となると平凡で弱い。「からすのカータ」「ヤヤとロロのそらすもう」はともに、絵に可能性を感じました。けれど物語性、文章力に難あり。「ふゆのおとしもの」は、詩情ある筆致が冬を描きながらも暖かみのある作品でした。そのぶん、予定調和な結末がものたりません。また、「いびきまくら」「くものアーレイ」の発想はよかったものの、絵に力がありませんでした。
というわけで、「ちいさなくるま」です。ただし、もろ手を挙げてこれだ、と思ったわけではありません。発想のおもしろさと展開力には魅かれました。しかし出版をひとつのハードルと考えると、熟考しなければならないことがあります。オノマトペです。実にありきたりな音の羅列に頼ってしまった。ことばは心地よく響きかなくてはなりませんから。
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